紡がれしクリスタルの導き
第8話「裸の冒険者たち」
サポートジョブのレベルが、メインジョブに追いついた。
タルティーの戦士、メルフィーの黒魔道士、ともにレベル18。メインジョブと同じレベルまで育て上げるのに、それなりの日数がかかった。装備も魔法も、万全とは言いがたい。だが、必要最低限はなんとか揃えた。
なんとか、というのは文字通り「なんとか」だ。
タルティーの装備は、あちこちに妥協の跡が見える。剣はモンスターが落としていったもの、防具は一部だけ新品で残りは使い回し。メルフィーのスクロールも、本当はサンダーまで覚えたかったが、ブリザドで資金が尽きた。
それでも、冒険者として一歩ずつ前に進んでいる実感はある。サポートジョブがあるのとないのとでは、戦いの安定感がまるで違う。タルティーは挑発でモンスターの注意を引きつけられるようになったし、メルフィーは精霊魔法で攻撃に参加できるようになった。
——さて、問題は相変わらず、お金だ。
いつもより早い時間にレベル上げを切り上げてバストゥークに戻った二人は、街中で奇妙な光景を目にした。
「…………ねぇ、タルティー」
「…………はい」
「あれ、なに」
「…………さぁ」
バストゥークの大通りを、裸の冒険者が走っていた。
いや、正確には裸ではない。最低限の下着は身につけている。だが、鎧も、ローブも、武器も、何もかも外した、ほぼ丸腰の姿だ。
しかも、一人ではない。
大通りを、次から次へと、裸に近い格好の冒険者たちが駆け抜けていく。ヒュームもエルヴァーンもタルタルも、種族を問わず、みんな同じように装備を外して走っている。その足取りはどこか必死で、だが同時にどこか楽しそうでもあった。
「あんなにたくさん……何かのお祭りなの?」
「お祭りにしては、ずいぶんと……その……薄着ですね」
二人が困惑した顔で立ち尽くしていると、通りかかった冒険者が声をかけてきた。ヒュームの男で、彼もまた下着姿だった。額には汗が光っている。
「あんたら、知らないのか? パルブロ鉱山だよ」
「パルブロ鉱山?」
「バストゥークの近くにある鉱山なんだが、そこで取れる砂利からミスリルの砂粒が精製できるんだよ。で、そのミスリルの砂粒がけっこうな値段で売れるんだ。金になるぞ!」
「ミスリル! あの、高級金属の?」
「そうそう。慣れれば時給一万ギルくらい稼げるやつもいるらしい」
「じ、時給一万ギル!?」
メルフィーの目が輝いた。今の二人の全財産をはるかに上回る額が、たった一時間で手に入るというのか。
「でも……なんで裸なんですか?」
タルティーが、もっともな疑問を口にした。
「砂利を運ぶのに、少しでも多く持てるようにだよ。装備品があると、その分カバンの容量を食っちまうだろ? だから、装備を全部外して、カバンを空っぽにして、砂利をぎゅうぎゅうに詰め込むんだ」
「なるほど……合理的、ではありますね」
「ただな、鉱山の中にはモンスターもいるから、裸でも死なないくらいの強さは必要だ。絡まれても逃げ切れるか、無視できるくらいじゃないとな」
男はそう言い残して、再び走り去っていった。下着姿で。全速力で。
二人は、しばらく無言でその背中を見送っていた。
「……時給一万ギル」
「……時給一万ギル、ですね」
「やりたい」
「ボクもやりたいです。……でも」
タルティーが、ちらりとメルフィーを見た。
メルフィーが、その視線に気づいた。
「…………」
「…………」
「何で私を見るの」
「いえ、別に」
「今、裸のこと考えたでしょ」
「考えてないですよ」
「考えたでしょ! 目が泳いでるもん!」
「泳いでませんって」
「ばかっ!」
メルフィーがタルティーの頭をぽかりと叩いた。タルタルの小さな頭に、軽い衝撃が走る。
「いたっ……叩かなくてもいいじゃないですか……」
「タルティーが変なこと考えるからでしょ!」
「だから考えてないですって……」
周囲を行き交う裸の冒険者たちが、二人のやりとりを微笑ましそうに眺めていた。
「で、実際のところ、ボクたちのレベルだと厳しいですよね」
「うーん……そうだよねぇ」
石段に座って、二人は冷静に話し合った。
パルブロ鉱山でのミスリル精製は、確かに魅力的な金策だ。だが、鉱山内のモンスターに絡まれても対処できるだけの実力がなければ、裸で鉱山に入るのは自殺行為に等しい。
今の二人のレベルは18。サポートジョブ込みでも、鉱山のモンスターを相手にするには心もとない。まして、装備を全部外した状態では——。
「あーあ、残念」
「裸になれないことが、ですか?」
「ばかっ!」
もう一発、ぽかり。
「いたっ」
「お金が稼げないことが残念って言ったの! もう、タルティーったら……」
「すみません……つい……」
タルティーは頭をさすりながら、内心ではちょっとだけ楽しんでいた。メルフィーの反応が面白くて、つい言ってしまうのだ。これは、絶対に口には出さないが。
「まぁ、ミスリルはいつか強くなったら挑戦するとして。今できることをやりましょう」
「そだね。で、どうする?」
「サポートジョブのレベル上げを一旦切り上げて……メインジョブに戻りましょうか」
タルティーは、戦士からシーフに切り替えた。使い慣れたナイフの感触が手に戻ると、やはりこちらの方がしっくりくる。それに、シーフにはトレジャーハンターがある。レベル上げをしながらでも、少しでも多くアイテムが手に入れば、金策の足しになる。
「じゃあ、私も白魔道士に戻るね」
メルフィーも、黒魔道士から白魔道士に切り替えた。サポートジョブに黒魔道士がつくことで、回復をしながら精霊魔法も撃てるようになる。
「シ/戦のタルティーと、白/黒のメルフィー」
「うん。なんか、ちょっとだけ強くなった気がするよね」
「ちょっとだけ、ですけどね」
「ちょっとだけでも、前に進んでるんだから、いいじゃん」
メルフィーが、にっと笑った。タルティーも、つられて笑った。
バストゥークの大通りを、裸の冒険者たちが走っていく。
その光景を横目に見ながら、二人は明日のレベル上げの計画を立て始めた。ミスリルの夢は、もう少し先に取っておこう。
「あ、タルティー」
「はい?」
「もしいつかミスリル掘りに行くことになっても、私は裸にならないからね。絶対に」
「……わかってますよ」
「本当にわかってる?」
「わかってますって」
「…………」
「…………本当ですよ」
夕暮れのバストゥークに、メルフィーの三度目の「ばかっ!」が響いたかどうかは、定かではない。