紡がれしクリスタルの導き
第12話「雪原と、その影」
翌朝。
ジュノのモグハウスで目を覚ましたタルティーは、しばらくぼんやりと天井を眺めていた。白い天井。バストゥークとは違う、ジュノの天井。
ここまで来た。ジュノに着いた。
——さて、どうしよう。
着替えを済ませて外に出ると、メルフィーがすでにモグハウスの前で待っていた。意外と早起きだ。
「おはよ、タルティー。ねぇ、今日どうする?」
「おはようございます。……実は、ボクもそれを考えてたんです」
「だよねー。ジュノに来たはいいけど、特に目的ないんだよね」
「ないですね」
二人は顔を見合わせて、苦笑した。
サポートジョブを取りにセルビナを目指したときは、はっきりとした目的があった。だが今回は、「ジュノに行きたい」という漠然とした憧れだけで来てしまった。着いた今、次に何をすべきかが見えていない。
「とりあえず、街をぶらぶらしようか。何か見つかるかも——」
メルフィーが言いかけたとき。
「あの、すみません」
後ろから、声がかかった。
振り返ると、四人の冒険者が立っていた。
先頭に立っているのは、エルヴァーンの男性。立派な鎧を身にまとい、長剣を腰に佩いている。戦士だ。その後ろに、ヒュームの男性戦士、ガルカのモンク、ミスラの黒魔道士が並んでいる。
「良かったら、レベル上げのパーティを組みませんか? 白魔道士とアタッカーを探していて」
エルヴァーンの戦士が、丁寧な口調で言った。物腰が柔らかく、穏やかな目をしている。
「レベル上げ!? 行く行く!」
メルフィーが、考えるよりも先に答えた。タルティーが何か言う前に、もう返事をしてしまっている。
「あ、えっと……ボクたち、レベル25なんですけど、大丈夫ですか?」
「ええ、私たちも全員25です。ちょうどいいですね」
渡りに船、とはこのことだ。目的もなくぶらぶらするつもりだった二人に、思いがけないお誘いが来た。
「じゃあ、さっそく行きましょうか。場所はクフィムを考えています」
「クフィム?」
「ジュノの港からさらに下へ行った先にあるエリアです。レベル25帯のレベル上げには、ちょうどいい場所ですよ」
初めて聞く名前だ。だが、この四人について行けば大丈夫だろう。タルティーとメルフィーは顔を見合わせて頷き、六人パーティが結成された。
ジュノの港から、さらに下層へと降りていく。
街の構造を抜け、洞窟のような通路に入った。天然の岩盤をくり抜いた長い長い通路が、どこまでも続いている。足元は整備されているが、天井は低く、時折水滴が落ちてくる。
「結構長いんですね、この洞窟」
「ええ。しばらく走りますが、辛抱してください」
エルヴァーンの戦士——パーティのリーダーが、先頭を走りながら振り返った。
六人は、洞窟の中をひたすら走った。暗い岩壁が左右に流れていく。途中、洞窟内に棲むモンスターの姿がちらりと見えたが、リーダーは慣れた様子でそれを避け、最短ルートを選んで進んでいく。
やがて——洞窟の出口に、白い光が見えた。
「着きましたよ。クフィムです」
洞窟を抜けた瞬間、冷たい風が頬を打った。
目の前に広がっていたのは——雪だった。
「……!」
白い大地。雪に覆われた、広大な原野。ところどころ地表が顔を出しているが、その大部分は白い雪で埋め尽くされている。空は灰色がかっていて、そこから細かい雪がちらちらと舞い降りてくる。
「ねーねー見て見て! 雪だよ! 雪!」
メルフィーが、目を輝かせて叫んだ。駆け出して、地面に積もった雪をすくい上げる。手のひらの上で、白い結晶がきらきらと光った。
「冷たい! でもきれい! タルティー、雪だよ!」
「はい、見えてますよ。……メルフィー、はしゃぎすぎです」
「だって雪だもん! 生まれて初めて見た!」
メルフィーは雪をぎゅっと握って、小さな雪玉を作った。そして、にやりと笑ってタルティーを見た。
「投げないでください」
「えー」
「投げないでくださいね?」
「…………」
「メルフィー」
「……わかったよ」
メルフィーが残念そうに雪玉を捨てた。パーティメンバーたちが、くすくすと笑っている。
レベル上げが始まった。
リーダーのエルヴァーンの戦士は、手慣れた様子ですぐに指示を出した。
「連携のパターンを決めましょう。まず、ヒュームの戦士がファストブレードで切り込みます。次に、私がレッドロータスで繋ぎます。そして、ガルカのモンクがコンボで締める。この三段で技連携を完成させます」
「了解だ」
「任せろ」
ヒュームの戦士とガルカのモンクが頷いた。
「黒魔道士は、技連携に合わせてファイアをお願いします。マジックバーストが決まれば、一気に畳み込めます」
「了解にゃ」
ミスラの黒魔道士が杖を構えた。
「白魔道士の方は、プロテスとシェルをパーティ全員にお願いします。戦闘中は回復に専念してください」
「はいっ! 任せて!」
メルフィーが元気よく返事をした。さっそく全員にプロテスとシェルをかけていく。六人分の強化魔法を切らさないように維持するのは、なかなかの負担だが、メルフィーの顔は嬉しそうだった。久しぶりの大人数パーティだ。
「そして、シーフの方」
リーダーが、タルティーを見た。
「常に背後に回り込んで、不意打ちで大ダメージを狙ってほしいんです。シーフの火力は不意打ちにかかっていますから。タイミングは任せます」
「わかりました。やってみます」
「よし。では——行きましょう」
クフィムのモンスターは、砂丘のものとはまた違った手強さがあった。だが、六人パーティの連携は見事だった。
ヒュームの戦士がモンスターに斬りかかる。ファストブレード——素早い二連撃がモンスターを捉える。
間髪入れず、リーダーのエルヴァーンの戦士がレッドロータスを放つ。炎を帯びた斬撃がモンスターに食い込み、二つの技が重なった瞬間——技連携が発生した。力の奔流がモンスターを襲う。
そこに、ガルカのモンクが拳を叩き込んだ。コンボ——連続した拳打がモンスターの体を揺さぶり、技連携がさらに増幅される。
「今にゃ!」
ミスラの黒魔道士が、タイミングを合わせてファイアを放った。技連携の余波に乗せるように、炎の魔法が着弾する。増幅された炎がモンスターを包み込んだ。
「ケアル!」
メルフィーが、前衛陣の傷を素早く回復していく。六人の状態を常に把握し、的確にケアルを振り分ける。以前のパーティ経験が活きていた。
そして、タルティーは——戦闘が始まった瞬間から、気配を消していた。みんなの攻撃にモンスターの注意が集まっている間に、砂利を踏む音すら立てずに背後へ回り込む。
——今だ。
「はっ!」
不意打ち。ナイフがモンスターの背中に突き刺さる。正面からでは考えられないほどの、深い一撃。モンスターが悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「ナイス不意打ちだ。見事なタイミングですね」
リーダーが、笑顔で親指を立てた。
リーダーの指示は、常に的確だった。
誰がどのタイミングで技を出すか。連携の順番。マジックバーストのタイミング。回復のタイミング。休憩のタイミング。すべてが計算されていて、無駄がない。
おかげで、ピンチになることは一度もなかった。モンスターを倒すたびに、確実に経験値が積み重なっていく。バルクルム砂丘でのパーティとはまた違う、より洗練された連携の中で、タルティーもメルフィーも、どんどん成長していくのを実感していた。
雪原の上で、六人は何時間も戦い続けた。
「そろそろ終わりにしましょうか。——おや、だいぶレベルが上がったようですね」
リーダーの声に、全員が冒険者証を確認した。
「レベル……30!?」
メルフィーが目を丸くした。
「25から30って……一日で5レベルも上がったの!?」
「効率のいいパーティなら、これくらいは上がりますよ」
リーダーが穏やかに笑った。
「みなさんのおかげです。白魔道士の回復が安定していたからこそ、前衛が安心して攻められました。シーフの不意打ちも、とどめの一撃として非常に効果的でしたよ」
タルティーは、少し照れたように頭を下げた。
「こちらこそ。リーダーの指示のおかげで、安心して戦えました」
「今日はみなさまのおかげで、非常に効率のいいレベル上げができました。ありがとうございました」
リーダーが丁寧にお辞儀をして、パーティは解散となった。
ジュノに戻る洞窟の中で、二人は興奮が冷めやらない様子だった。
「タルティー、すごかったね! あのパーティ!」
「うん、すごかった。連携が綺麗に決まるって、こんなに気持ちいいんですね」
「リーダーさんの指示、完璧だったよね。あんなふうにパーティをまとめられるって、かっこいいなぁ」
「ですね。……ボクも、いつかああいうリーダーになれたらいいなって、少し思いました」
「タルティーなら、なれるよ。きっと」
メルフィーが、さらりと言った。タルティーは少し驚いたように目を瞬いたが、やがて小さく笑って「ありがとうございます」と答えた。
さらに翌日。
今日も声をかけられた。レベル上げパーティへの誘いだ。ジュノには冒険者が多い分、パーティの募集も活発だった。
「タルティー、今日もパーティだって! 行こうよ!」
「はい。昨日みたいにいい経験ができるといいですね」
今日のパーティも、六人構成。ヒュームの男性戦士がリーダーで、エルヴァーンの男性赤魔道士、エルヴァーンの女性黒魔道士、ガルカの男性シーフ。そこにタルティーのシーフと、メルフィーの白魔道士が加わった。
場所は、昨日と同じクフィム。
だが——この日のパーティは、昨日とはまるで違っていた。
最初から、噛み合わなかった。
リーダーのヒュームの戦士は、昨日のエルヴァーンの戦士とは対照的だった。指示が曖昧で、連携のタイミングがはっきりしない。前衛の攻撃がばらばらで、技連携がうまく成立しない。
「おい、連携だ! 連携しろ!」
リーダーが叫ぶが、誰がどの順番で何を出すのか、明確な指示がない。結果、攻撃は噛み合わず、モンスターを倒すのに時間がかかる。
エルヴァーンの女性黒魔道士は、連携が成立しないまま精霊魔法を撃ち続けていた。技連携に合わせたマジックバーストができないため、通常の精霊魔法だけで攻撃することになる。当然、魔力の消費は激しい。
戦闘が長引けば長引くほど、黒魔道士の魔力はどんどん減っていく。やがて、魔力が底をつくたびにヒーリングで回復しなければならなくなり、戦闘のテンポはさらに悪化した。
「また座るのかよ……」
リーダーの戦士が、ヒーリングする黒魔道士を見て舌打ちした。
エルヴァーンの赤魔道士は、黙々と弱体魔法と回復を繰り返していた。状況が悪いことは理解しているようだが、何も言わずに自分の役割をこなしている。
タルティーは、自分にできることを精一杯やっていた。不意打ちのタイミングを計り、背後に回り込んで一撃を入れる。だが、連携が成立しない中でのシーフの火力には限界がある。不意打ちの一撃は大きいが、それ以外の通常攻撃では、どうしてもダメージが伸びない。ナイフという武器の性質上、一撃の重さでは戦士やモンクには敵わないのだ。
メルフィーは、必死に回復を続けていた。戦闘が長引く分、前衛が受けるダメージも増える。魔力のやりくりに苦心しながら、なんとかパーティを維持しようとしていた。
——重い空気が、じわじわとパーティを覆い始めていた。
何匹目かのモンスターを倒した後、それは起こった。
「あーあ、全然進まねぇな」
リーダーの戦士が、苛立った声を出した。
誰も何も言わなかった。その沈黙が、リーダーの苛立ちをさらに煽ったのかもしれない。
戦士の視線が、タルティーに向いた。
「おい、タルタル」
「……はい?」
「お前のシーフ、なんだよあの攻撃。全然ダメージ出てねぇじゃねぇか」
タルティーは、息を呑んだ。
「不意打ちのとき以外、ほとんど役に立ってねぇだろ。ちまちまちまちまナイフ振ってるだけで、モンスターの体力がちっとも減らねぇ。タルタルのシーフなんてクソだな」
——クソ。
その言葉が、耳の奥で反響した。
「そうさね」
黒魔道士のエルヴァーンの女性が、腕を組んで口を開いた。
「いつまで経ってもモンスターが倒せないから、アタイの魔力が足りなくなるんだよ。もうちょっとまともに削ってくれないかねぇ」
「お荷物……だな」
ガルカのシーフが、短く言った。同じシーフでありながら、ガルカの巨体から繰り出されるナイフの一撃は、タルタルのタルティーとは段違いの威力がある。その差を、おそらくこのガルカも感じていたのだろう。
タルティーは何も言えなかった。
反論したかった。連携が成立しないのはリーダーの指示が悪いからだ。黒魔道士の魔力が枯渇するのは、マジックバーストができない状況で精霊魔法を撃ち続けているからだ。シーフの火力が不意打ちに偏るのは、そういうジョブなのだ。
だが、言葉が出なかった。
タルタルのシーフなんてクソだ——その言葉が、喉の奥につかえて、何も言えなかった。
次の瞬間。
「パーティから消えろ」
リーダーの戦士が、冷たい声で言った。
タルティーの冒険者証に、通知が表示された。パーティからの強制脱退——キック。
「えっ……」
タルティーは、自分の冒険者証を見つめた。パーティ欄が空白になっている。ついさっきまで表示されていたメンバーの名前が、すべて消えている。
追い出された。
「ちょ、ちょっと!」
メルフィーの声が、雪原に響いた。
「いくらなんでも、ひどいんじゃない!? タルティーは自分の仕事をちゃんとやってたよ! 不意打ちだって、ちゃんとダメージ出してたじゃん!」
「うるせぇな。パーティの方針に口出すな、白魔」
「方針って——連携の指示もまともに出さないで、うまくいかないのを人のせいにして——」
「んだと?」
リーダーの戦士が、メルフィーを睨んだ。
その時、エルヴァーンの赤魔道士が、静かに口を開いた。
「……失礼ですが、さすがにやりすぎではありませんか」
穏やかな声だった。だが、その中には、はっきりとした批判の意志が込められていた。
「すみませんが、気分が悪いので、私はここで抜けさせていただきますね」
そう言うと、赤魔道士は自らパーティを脱退した。タルティーに向かって小さく頭を下げると、振り返ることなく、雪原の向こうへと歩き去っていった。
赤魔道士が去ったことで、リーダーの戦士の苛立ちは頂点に達した。
「——てめぇのせいだ」
戦士が、タルティーに向かって歩いてきた。
「てめぇがいるから、パーティが崩壊したんだ。てめぇみたいなゴミシーフがいなけりゃ、こんなことにはならなかったんだよ」
「やめてください。ボクは——」
「うるせぇ!」
戦士の足が、タルティーの小さな体を蹴り上げた。
タルタルの体が、雪の上を転がった。
「タルティー!!」
メルフィーが叫んだ。
だが、戦士は止まらなかった。倒れたタルティーに歩み寄り、胸ぐらをつかんで持ち上げた。タルタルの小さな体は、ヒュームの片手で簡単に持ち上がってしまう。
「タルタルのくせに冒険者なんかやってんじゃねぇよ。邪魔なんだよ、お前は——」
「やめて!!」
メルフィーが、戦士の腕にしがみついた。
「離して! タルティーを離して!!」
「邪魔すんな!」
戦士が、空いた方の腕でメルフィーを突き飛ばした。メルフィーの体が宙を舞い、雪の上に叩きつけられた。
「——っ!」
メルフィーが倒れる姿が、タルティーの目に入った。
雪の上に倒れたメルフィーが、痛みに顔を歪めている。腕を庇うようにしている。
——その瞬間。
タルティーの中で、何かが弾けた。
戦士に掴まれたまま、タルティーは体をひねった。小さな体だからこそできる、素早い動き。戦士の腕の拘束をすり抜けるように体を回転させ——持っていたナイフの柄で、戦士の顎を打ち上げた。
渾身の一撃だった。
戦士の頭がのけぞり、掴んでいた手が緩んだ。タルティーは着地すると同時に、メルフィーのもとへ走った。
「立てる?」
タルティーの声は、低かった。丁寧語ではない。
「う、うん……」
「行こう」
タルティーはメルフィーの手を引いて走り出した。後ろで戦士が何か怒鳴っているが、振り返らなかった。
どれくらい走っただろう。
気づけば、ジュノの港の片隅にいた。
人通りの少ない、薄暗い場所。石壁に囲まれた狭い空間に、木箱がいくつか積まれている。二人は、その木箱の陰に座り込んだ。
しばらく、二人とも何も言えなかった。
荒い息だけが、狭い空間に響いている。
「……メルフィー」
タルティーが、先に口を開いた。いつもの口調に戻っていた。だが、その声は小さく、震えていた。
「ごめん……ボクのせいで……」
「違うよ」
メルフィーが、すぐに否定した。
「タルティーが悪いんじゃないよ。悪いのはあの人たちだよ」
「でも……ケガをさせてしまった……」
タルティーの目が、メルフィーの腕に向いた。突き飛ばされたときに打ちつけた右腕。袖の下に、痣ができているかもしれない。
「だから、大丈夫だって。このくらい——」
「大丈夫じゃないですよ」
タルティーの声が、ほんの少しだけ強くなった。そして、すぐにまた小さくなった。
「……ボクが、もっと強ければ」
「タルティー……」
「ボクがもっとダメージを出せていたら、あんなことにはならなかった。ボクが、タルタルじゃなかったら——」
「タルティー!」
メルフィーが、タルティーの手を握った。小さな手を、両手で包み込むように。
「そんなこと言わないで。タルティーがタルタルじゃなかったら、私はタルティーに出会えなかったんだよ」
「…………」
「あの日、バストゥークの街角で、ゆっくり歩いてるタルタルがいなかったら、私は冒険者優待券の渡し先もわからないまま、ひとりでうろうろしてたんだよ?」
メルフィーの声も、震えていた。泣きそうだった。でも、泣かなかった。
「タルタルのシーフがクソなんて、嘘だよ。あんな人の言葉、信じちゃダメだよ。タルティーの不意打ちは、すごいんだから。昨日のリーダーさんだって、見事だって言ってくれたじゃん」
「…………」
「だから……だから、自分のこと、そんなふうに言わないで」
タルティーは、握られた手を見つめていた。
メルフィーの手は、温かかった。
泣きたかった。でも、泣いたら——メルフィーを、もっと心配させてしまう。
だから、タルティーは唇を噛んだ。
ぎゅっと、強く。
血の味がした。
「…………ありがとう、メルフィー」
絞り出すように、それだけ言った。
港の片隅で、二人はしばらくの間、そのまま座っていた。
遠くから、騒がしい音が聞こえていた。ジュノの喧噪が、石壁の向こうでかすかに響いている。
冒険者の世界は、楽しいことばかりではない。
理不尽なことも、傷つくことも、ある。
それでも——隣に、手を握ってくれる人がいる。
それだけが、今のタルティーにとっての、たったひとつの救いだった。
