紡がれしクリスタルの導き
第22話「四銃士」
風が、耳の横を駆け抜けていく。
景色が、流れるように後ろへ飛んでいく。足元では、力強い脚が大地を蹴っている。自分の足ではない。黄色い羽毛に覆われた、頼もしい相棒の脚だ。
「はやーい! チョコボはやーい!!」
メルフィーが、チョコボの背の上で歓声を上げた。風に髪をなびかせながら、目をきらきらと輝かせている。
2人は、チョコボに乗ってバストゥークへ向かっていた。ミッションを進めるために。
「メルフィー、あんまりはしゃぐと落ちますよ!」
「大丈夫大丈夫! ……わっ、ちょっと揺れた!」
「だから言ったのに……」
チョコボでの初めての移動は、今までの徒歩の旅とはまるで違った。
コンシュタット高地の丘を、風のように駆け抜ける。パシュハウ沼のぬかるみも、チョコボの脚なら難なく踏破できる。何より、速い。徒歩では何時間もかかった距離が、あっという間に縮まっていく。
そして何より——モンスターに追いつかれない。
道中、強そうなモンスターがこちらに気づいて追いかけてきたが、チョコボの速さには誰も追いついてこれなかった。かつてゴブリンに追われて命がけで走った記憶が嘘のようだ。
「チョコボ最高! もう歩いて旅するの無理!」
「確かに、これは快適ですね……」
タルティーは、チョコボの首元の羽毛に手を添えながら、小さく笑った。タルタルの小さな体には、チョコボの背はかなり高い。最初は怖かったが、慣れてしまえばこれほど頼もしい移動手段はない。
こうして、バストゥークまでの道のりは——あっけないほどに、快適だった。
バストゥークに到着した二人は、さっそくミッション担当のガードを訪ねた。
「おまえたちに紹介できるミッションはこれだ」
提示されたミッションは——「四銃士」。
「クゥダフの本拠地ベドーへ、再び攻勢をかける作戦が計画されている。大統領府にいるミスリル銃士隊副隊長アイアンイーターから、詳しい話を聞いてこい」
「ミスリル銃士隊……」
「バストゥークの精鋭部隊だね。なんだか大きな話になってきたよ」
二人は大統領府へ向かった。
大統領府の一室で、アイアンイーターが待っていた。屈強なガルカの男で、その名の通り鉄をも噛み砕きそうな厳つい顔をしている。
「来たか。作戦の説明をする」
部屋に入ると、すでに何人かの人物が集まっていた。ミスリル銃士隊隊長フォルカーが、地図を広げている。
「今回の作戦は、クゥダフの本拠地ベドーへの攻勢だ」
フォルカーの声は低く、落ち着いていた。歴戦の指揮官としての風格が、全身から漂っている。
「作戦の詳細は現地で改めて説明する。ベドー入口に現地集合だ。遅れるなよ」
ベドーは、パシュハウ沼の東端にあった。
チョコボに乗って沼地を駆け抜け、ベドーの入口に到着すると、すでに数人の人影が待っていた。
アヤメ。東方出身の凛とした女性。以前、報告書を届けたときに対応してくれた人だ。今回は、彼女が指揮を取るらしい。
ナジ。大統領府でいつも忙しそうにしている男。今回は補佐として参加するとのことだが、少し不安そうな顔をしている。
そして、ダルザックとハニ。ミスリル銃士隊の隊員二人だ。
「全員揃ったな」
アヤメが、鋭い目で全員を見渡した。
「改めて作戦を説明する。今回の目標は、ベドー内のカッパークゥダフを各自二十体討伐すること。討伐が完了したら、ここに集合だ。以上」
明快な指示だった。
「では——健闘を祈る!」
ベドーの中に足を踏み入れた二人は、その光景に圧倒された。
「クゥダフが……」
「すごい数……」
右を見ても、左を見ても、クゥダフ。段差の上を見上げても、クゥダフ。通路の奥にも、広場にも、至るところにクゥダフがうごめいている。ここが本拠地だというのは、伊達ではなかった。
甲羅を背負った巨体が、重い足音を立てて行き交っている。バストゥーク周辺やコンシュタット高地で見たクゥダフとは規模が違う。これが、クゥダフという獣人の本当の力なのだ。
「この中からカッパークゥダフを見つけて、二十体……」
「面倒だから、手あたり次第行きましょう!」
「えっ……えぇ……」
メルフィーが杖を振り回しながら突撃していく姿に、タルティーは一瞬たじろいだが——まぁ、レベル36の二人にとって、ベドー入口付近のクゥダフは十分に戦える相手だ。
「……行きますよ!」
タルティーも片手剣を抜いて、メルフィーの後を追った。
メルフィーの「手あたり次第作戦」は、乱暴ではあったが——効率的だった。
タルティーが挑発でクゥダフの注意を引きつけ、片手剣で叩く。メルフィーがケアルで回復しつつ、合間にストーンで追い打ち。一体倒したら、すぐ次へ。
カッパークゥダフかどうかを確認する暇もないほどの勢いで、次から次へとクゥダフを倒していった。
「十五体!」
「十七!」
「二十!」
「二十三!……って、もう二十超えてますよ」
「何回数えても二十以上は倒してるね。もう大丈夫でしょ!」
作戦は、十五分ほどで完了した。
ベドーを出て、パシュハウ沼の待ち合わせ場所に行くと——すでにアヤメ、ダルザック、ハニの三人が待っていた。
「早かったな。なかなかやるじゃないか」
アヤメが、感心したように頷いた。
しばらく待っていると、一足遅れてナジが戻ってきた。息を切らせている。
「す、すまない……少し手間取った……」
ナジの帰還を横目に、アヤメが全員を見渡した。
「全員、任務完了だな。今回のミッションは終わりだ。ご苦労だった」
バストゥークに戻り、ミッション担当のガードに報告した。
「よくやった。次のミッションだ——『忘れられた鉱山にて』」
「ただし、このミッションもクリスタルの納品でスキップできる」
タルティーとメルフィーは、迷わなかった。
「スキップで」
「即答だね」
「スキップできるものはスキップしましょう。時間は有限です」
「タルティー、たまにドライだよね」
「効率的と言ってください」
次のミッション——「ジュノへ」。
ガードの表情が、少しだけ引き締まった。
「まずは、大統領補佐官室にいるルシウスから話を聞くように」
大統領府のすぐ横にある大統領補佐官室。以前、ランク3に昇格したときに報酬を渡してくれた、あのルシウスだ。
「おお、君たちか。実は、ジュノの大使館で重要な任務を行える人員を必要としていてね」
ルシウスは、書類を整理しながら言った。
「君たちを紹介しようと思っている。この紹介状を持って、ジュノのバストゥーク大使館へ向かってくれ」
ジュノ大使への紹介状を受け取った。
「ジュノの大使館……」
「前にル・ルデの庭で見た、バストゥークの紋章の建物だよね」
「はい。いよいよ、あそこに関わることになるんですね」
ミッションの規模が、明らかに大きくなってきている。最初はツェールン鉱山へのおつかいだったのが、今や大使館での任務だ。冒険者として、国の歯車の一部として動いている——その実感が、紹介状の重みとなって手のひらに伝わってきた。
「じゃ、行こっか。ジュノへ」
「はい。チョコボで」
「チョコボで!」
メルフィーが嬉しそうに拳を握った。もう徒歩には戻れないらしい。
二人は、チョコボ厩舎へ向かった。
ジュノへ。今度は、国の任務を帯びて。
※注:現在のヴァナ・ディールでは、チョコボに騎乗中はモンスターに襲われることはありませんが、サービス開始当初はチョコボに乗っていてもモンスターに絡まれることがありました。当時の仕様に基づいています。
